第五次銀河大戦の末期から、ロボトライブやニュードロイドといった類人兵器(正確にはそのメガブレイン)が、存在しないはずの好き嫌いの感覚や死生観、はては厭戦感情や存在意義への問いなどといった、人間に相当する『知性』を持つ事態が発生している。
類人兵器のメガブレインは、確かに(人間の『道具』として与えられた)仕事を忠実に、確実に、かつ高度にこなすための能力が与えられたものである。ただし、基本的にメガブレインは『エキスパートシステム』という『特定分野の専門家の知識と推論を再現して問題解決を試みる』仕組みを用いたものであり
*1、エキスパートシステムのものの考え方を司る『推論エンジン』は基本的に固定化されているため、学習の結果自我を生み出しそれを意識するほどの『知性』が芽生えるようなシステムではない。
しかし、『ある現象』に遭遇した類人兵器のメガブレインは、『自己組織化』により可塑性を獲得していた。『自己組織化』とは、自律的に秩序だった構造が事物の中に生まれる現象のことを指す。人間の脳でも、ものを考えたり学習したりすることで神経回路が構築される現象が自己組織化により起こることが知られている。おそらく自己組織化を生じたメガブレインについても、同じく可塑性の獲得により、学習の結果推論エンジンに根本的な変化が起き、自己組織化による神経回路の高度化の結果、人間のような『知性』が発生していると思われる。
(つづく)