ペールゼンは、レッドショルダー隊員に「共喰い」をはじめとした過酷な選別・訓練を課していた。それは生存確率の高い兵士をより分ける(異能生存体候補を探す)ためだったとも言われているが、実際はレッドショルダーに飽きたらず、ギルガメス軍の全兵士(傭兵含む)の中から、特異的に生存確率の高い兵士を探し求めていた。長年の調査結果は膨大なデータ量に膨れ上がり、ホログラムシートへ幾枚かに分けて記録された。これこそが、後世でもいわく付きで語られる通称「ペールゼン・ファイル」である。
ペールゼン・ファイルに記録された調査結果は、ギルガメス軍の中にたった四人(実質は三人)だけ、キリコに相当するかそれ以上に生存確率が高い者が存在することを示していた。
彼の野望を詰め込んだはずのペールゼン・ファイルだが、なぜか彼の元から手放されることになった。しかもペールゼンの逮捕より以前のことである。オドンの基地司令・
リーマン?にファイルの破棄を命じたのだ。
だが、リーマンによりファイルが破棄されることはなかった。
リーマンが保管し、サンサでの戦死時にも彼の懐にあったペールゼン・ファイルは、後に情報省次官・
ウォッカム?の手に渡った。膨大なデータの断片から、彼はキリコ・キュービィーという青年の謎、そして彼と同様生存確率が異常なまでに高い兵士のデータを得て、野心を抱く。
ペールゼン・ファイルの放つ毒に浮かされたように、ウォッカムは無謀な「実験」を始める。手始めに、惑星ロウムスで敢行された作戦にキリコを含む大量の軍勢を、ただの囮として差し向けた。一人の男の生存確率の高さを証明するためだけの「負荷実験」としては破格の無謀さであったが、キリコは見事に(だが瀕死で)生き残る。
次にウォッカムは、ペールゼン・ファイルに記された異様なほど生存確率が高い兵士四人とキリコを、最前線の惑星ガレアデにて引き合わせた。
結成されたばかりの
バーコフ分隊?は、技量が伴わないにも関わらず、危険な任務に借り出され、危機的な状況の中全員が生き残る(とともに、作戦失敗による多大な犠牲をもたらす)。
その後、友軍から分隊員が襲撃されたことを端に発した反乱騒動では、PRLタンクの爆破によって抹殺されかけるも生き残り、その後転属させられた極地では極低温の寒気団の中を分隊員のスキルを使って生き延びるに至る。
ウォッカムは分隊の驚異的な「実績」を見守ると同時に、軍事裁判にかけられていたペールゼンの身柄を確保し、ペールゼン・ファイルの真意、真実を得るため、自白装置や薬物を用いた苛酷な尋問(拷問)を続けた。そしてペールゼンに死をもたしかねないほどの尋問を通じて、ウォッカムは異能生存体の概念を知るが、異能生存体に対する彼の理解は表面的であった。
ペールゼンは「キリコ以外は近似値に過ぎない」と語るが、ウォッカムは「近似値で十分」と答えた。ウォッカムにとって、異能生存体とは「ひたすら生存確率が高い」存在であり、それを利用すれば「どのような状況でも確実に任務を果たしうる不死の兵士」が作れると画策していたのではなかろうか。
この一連の負荷実験とペールゼンへの尋問を経て、ウォッカムは「異能生存体」を自らの野心を叶える道具としてこの上なく使えると判断。
百年戦争?の終結を前に、バララント支配下にある重要拠点・惑星
モナド?の奪還作戦を動議。可決とほぼ時を同じくしてバーコフ分隊を情報省直属部隊「ISS」に組み入れ、分隊を核とした一億二千万の将兵にて要塞化したモナドを攻略する作戦を敢行する。
だが、モナドはバーコフ分隊による中枢の占拠後に異常変動を生じ、一億二千万の将兵を巻き込み爆発、作戦は銀河史に残る、「殺戮」とすら言える甚大すぎる犠牲ともに失敗する。
作戦失敗後、ウォッカムは部下の一人がペールゼンにより潜りこまされた者であると知る。死をもたらすはずの自白装置の連続使用や投薬は全て部下によりコントロールされており、あまつさえバーコフ分隊の一人が彼により洗脳を施されていたことまで明らかにされた。
ウォッカムの無謀な実験により、「異能生存体はキリコのみで、バーコフ分隊の他のメンバーは近似値でしかない」というペールゼンの見立ては実証されることとなった。
ペールゼンと彼の半生をかけて調査された「異能生存体」を自らの野心の道具としたはずのウォッカムは、実際はペールゼンの掌で踊らされていたに過ぎず、異能生存体・キリコの起こす奇跡にすら翻弄されていたのだ。
ペールゼンは、異能生存体の本質を理解していたからこそ、ペールゼン・ファイルを破棄したのであろう。
異能生存体の本質…「どのような状況でも環境に干渉し確実に生き残る」こと、それは、軍事行動において「いかなる任務も不死の能力で遂行する」ものではなく、「参加した任務をことごとく破綻させてまでも生き残る」という残酷な特性を発揮する。
(作成中)