「装甲騎兵ボトムズ」を語るときに、登場するロボット兵器・ATとともに特異なものとして扱われるのが、主人公、
キリコ・キュービィーである。
当初は、自軍を襲う謎の作戦に参加させられ、人間兵器の素体(後の
フィアナ)との出会いにより運命を翻弄されるといった程度だったのが、物語後半に入って「常人を遙かに超える回復スピードを誇る肉体」を持つことが判明し、人間兵器・
パーフェクトソルジャー(PS)たる
イプシロン?との対決により、PS同等かそれを上回る力を持つことが露呈する。
さらに終盤では、アストラギウス銀河を裏から操ってきた神・
ワイズマン?の後継者として指名され、もとより神の候補としての資質を持つ
異能者であったことが明かされる。そして一時は神の後継者として全銀河の支配を目論むかのように振る舞ったが、死に物狂いで至った神の鼻先でそれを翻し、神を自ら(と、彼を信じてついてきたフィアナ)の手で葬ってしまう。
ここまででも十二分に特異だが、
その後のOVAでは、さらに「殺そうとしても奇跡的な事象の発生により死なない」という「
異能生存体」としての設定が付与され、いよいよアニメーションの主人公として見ても独特な位置付けに至る。
兵器の描写こそリアリスティックな面が目立つものの、キリコ・キュービィーの物語は、ATなどが作り出すハードな世界観を突き抜けた、超自然的・超越的なものとなっており、ロボットアニメにおけるATの独特さとはまた違う意味の独特さを醸し出している。
それゆえにか、キリコ・キュービィーを主人公に据えたシリーズが、2011年時点でも製作されている
*1。同じく長期にわたり製作され続けているガンダムでも、主人公や世界観を変えながらの展開であることを考えると、同一の主人公を据えたシリーズが30年近く(もしくはそれ以上)展開されているのは、やや特異に思う。
しかし、キリコ・キュービィーというキャラクタが超越的なものなのかというと、決してそうではない。世俗的なものとは距離をおくような、どこかニヒルというかハードボイルドな雰囲気を持ちつつも、時には優しさや人間くささ、不器用さを隠さずに人と接するような人間である。
(以下続く)